●そのあと、池上先生とはしばらくあいだがあった?


そう。
なんだかんだ言って、いろいろなことがあって、
俺、小学館もうだめだなって思って。
いろいろな意見の衝突とか…、
一部の編集にそんなに評価されなかったんで…。
それで『ファントム無頼』のあと、
しばらく小学館やってないんじゃない?
それから2〜3年、もっとだね、
仕事やってないんじゃないか。

だからそのあいだは、3社またにかけてってのはなくなって、
集英社、講談社で…。
結局『北斗の拳』を終わったあとは、
講談社専属みたいになってたでしょ、一時。
集英社の週刊少年ジャンプは『北斗』が終わってから、
1回もオファー来ないし…、
月刊少年ジャンプの『マンモス』もそのころで、
そのあとはスーパージャンプの『むしむしころころ』まで仕事空くのよ。

【編集メモ】

*『マンモス』1985(S60)年1月号〜1988(S63)年1月号 集英社 月刊少年ジャンプ 漫画/小成たか紀
  善良な刑事が復讐の鬼と化し悪を倒すバイオレンスアクション。
*『むしむしころころ』1992(H4)年19号〜1996(H8)年18号 集英社 スーパージャンプ 漫画 /あだちつよし
 小心極道野郎のお笑い系悪戦苦闘ストーリー。

だからほとんど、講談社のヤングマガジンでやってたんじゃない。
それで、なんだかんだやってたら、
突然、小学館のあの編集(第5回目参照)から電話かかってきて、
とりあえず飲みに来いや!
って言うんで、飲みに行ったら、
池上先生はそのとき『信長』やってたんだけど、
事情があって連載やめなきゃいけなくなっちゃってたんで、
それでどうしようかっていうときに、
うまく白羽の矢が当たったっていうか、
池上先生とやらないかって話になって、
それでスペリオールで『サンクチュアリ』が始まったんだ。

だから、『ファントム無頼』とまったく同じ状況だよね。
いきなり呼びつけられて、
お前、新谷かおるとやらないかってのと、
全く同じ編集長で、
今回は、池上先生とやらないかって…。
そりゃ、やらしてくれるんだったらやるよっていうか、
やらせていただきますだからさ…。

【編集メモ】

*『サンクチュアリ』1990(H2)年4/15号〜1995(H7)年4/1号 小学館 ビッグコミックスペリオール
  政治家とヤクザ。光と影の世界を生きるふたりの男の壮絶な友情を描いた感動劇。



●『サンクチュアリ』はどのような形で始まりましたか?

最初は、池上先生いないわけよ、当然。
で、やるってことだったら、とにかくやるもの決めようって、
それで、そのときに編集3人かな、で、俺と4人で池袋の…、
居酒屋かなんかだったかな。
酒飲みながら、じゃあ何やるんだよって話になって、
いろいろなことを話してたら、
もう新しいものやるしかないから、
政治って面白いんじゃないかって話になって、
それは面白いなってことになった。
だけど政治だけだったらエンタテインメント拾えないぞ、
じゃあヤクザくっつけちゃえ、
それで2つでいけるじゃないかってポロッと言ったら、
おぉ、それ面白いな。いきなり、ハイ決まり!って、
またあの編集長の独断で(笑)。

それで決まったの。
ヤクザと政治家、それをエンタテインメントに直してやろうって、
それで『サンクチュアリ』の1回目が出来たんだ。

(前回お聞きしたカンボジアの難民のエピソードもうまく入ってましたよね)

最初、それは全くなくて、
とりあえず、ジャンケンで主人公の運命を決めようよって話になってた。
でも書いて行くうちに、ジャンケンで自分の運命を決められる
その友情とかってのは、とてつもない地獄をくぐっている
だろうなって…。
普通の経験だとそんなことあり得ないだろうなって思って、
ふと、じゃあカンボジアの難民にしちゃえって。
だから、あれがなかったら嘘になってたな。
そのジャンケンで決める人生をってのは、
あのエピソードがあったからジャンケンってのが、
あー、このふたりの主人公だったらって、うまいことハマったのよ。
だから、みんなひっくり返ったよね、書いてったら。
実は、俺の引き出しにこんなもんが入ってましたってポンと出したら、
むこうが、おぉーっと。

(連載の1話目読んで、本当にやられたって感じました)

うまく書けたよね。
多分、池上先生とやれるってことでかなりリキ入ってたし、
かなり真剣に書いたんじゃないかな。

(ふたりの主人公のモデルは?)

いない、いない。
まったく俺の頭の中で…。
いつものパターンでしょ、俺の…。
作っていくうちにだんだん作っていく(笑)。
だから最初は主人公の指定もしないし、
こういう青年、こういう感じ、ぐらいで…。
片一方はかっこいいヤクザ、都会っぽいヤクザ。
片一方はインテリだけど同じ臭いを感じさせる政治家秘書って、
それだけのことを言えば、池上先生はちゃんと感じ取って描くさ。

(原作者のイメージと池上先生の描いたキャラに差はなかったと?)

かわらない、かわらない。
池上先生はやっぱりすごいよ、そういうところは。

(あの作品は、個人的には先生の作品の中でもかなり好きな作品なのですが)

作品のクォリティー的には相当すごい作品だと思うよ。
なんだろうな…、俺の代表作だと思うよ。

それでも、漫画賞取れなかったからね(笑)。
これは絶対取れると思ったの(強く)、池上先生も俺も。
『サンクチュアリ』は…。
Dr.クマひげ』は講談社、『サンクチュアリ』は小学館で。
これは絶対もう自信満々だったんだけどね、
それでも取れないってのは、絶対なんかあるなってね(笑)。

(自信満々になったのは連載始めてからどのくらいのころですか?)

ふたりの過去がきれいに出て、
そのあと、ヤクザの中で渡海というキャラクターが出て来て、
話の幅が出て来て、
もう片一方の政治家のほうは、公選制っていう一つの目標が出て来たころ。
そのへんの話の流れはほとんど傷がないっていうか、
どこから突っ込まれてもいい、大丈夫だって話だからね。
そうだね…、
いろいろな漫画の中でも相当レベルの高い漫画だと思ってたからね、
自分の中でもね。


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