(そんな連載をほっぽって…。/第4回目参照)


そう、だから、それだけきつかったってことだろうね。
一番佳境で逃げたんだからな、うん。

(自分の書いた作品のレベル、クォリティーがきつすぎて…?)

あのね、書けるとは思ってたと思うんだ、書き続けることは。
ただ、そのまま書いていっちゃうと、俺、そのあとがないなみたいな…。
もう引き出し全部出しちゃって…、カンボジアから何から、
わーって進んでいって、
なんか知らんけどすっごく不安になったんだろうな。

多分、肉体的な問題もあったと思うんだけどね。
肉体的に疲れてきたって。
こりゃあもう、1回とりあえず体を鍛え直さなきゃだめだって…、
もちろん精神的なものもあったんだけど、
まず体からってのがあって…。
それは本当にムチャだよね、
一番佳境でとりあえず半年休ませてくれって言ったんだから。

(編集の立場からすると泣きたくなりますが…)

だから、編集長、帰ったらいなくなってた。
牧場から帰ったら(苦笑)。
そのあとね、さあって、始まったわけ、
そしたら始まって2〜3ヵ月して、今度は池上先生が倒れたの。
それで池上先生が2〜3ヵ月休んでくれたの。

これでおあいこって言ってさ(笑)。
でも、池上先生は体を壊して休んだんだよ。
あんた(史村さん)は勝手に逃げたんじゃねえかよって、
そう思ったんじゃないかな。
池上先生はやさしいから言わなかったけど。

(そういう難産を繰り返しながら…)

読者がね、編集も待っててくれたけど、
読者がよく待っててくれたと思う。

(最後のシーンは心に残りますね)

最後はね、
『サンクチュアリ』の最後は本当にいいシーン書いたでしょ。
そしたら編集がこのままで終わるのもったいないって言うんで、
今までにないことなんだけど、最後のシーン、2色にしましょうって、
刷りとか折りとかをムチャしてね、編集が動いてくれて、
最後を絶対2色でやりますよって言って、
ちゃんと夕日のシーンを2色でやってくれたの。

最後のシーン書いたときに、以前に担当した編集者…、
他の雑誌に異動で行ってたヤツから、電話かかってきたもんね、
泣かせていただきましたって(笑)。


●『オデッセイ』に関しては?

【編集メモ】
*『オデッセイ』1995(H7)年13号〜1996(H8)年17号 ビッグコミックスペリオール 漫画/池上遼一
  海外に派遣された自衛隊が突然戦闘行為に突入するポリティカル・フィクション。

本当はもう少し休みたかったの、
『サンクチュアリ』のアクが抜けるまで。
ところが、今度は雑誌の方から、休ませられないって言うわけ。
それで見切り発車しちゃったのよ。
それでちょっと失敗しちゃって、
池上先生にずいぶん苦労かけちゃって…。

どうしてもね、俺の中で、新しいほうへ行けなかったの。
どうしても政治のほうへ引っ張っちゃったのよ。
その政治の部分もね、中途半端になってて、
それでなんだかんだ試行錯誤しているうちに、
クーデター物ってなっちゃって…。
あれは、あきらかに俺のチョイスミスだし、俺の力不足だったねえ。

(主人公よりは…)

話に重きを置いちゃったの。
それはねえ…、
池上先生にごめんなさいって言うしかないんだけど、
俺の我がままで、やりたいものがあるからってことで、
始まっちゃったんだけど、やっぱり、人気的にもダメだし、
そうなると、俺、
反省するのも早いし、手ぇ引くのも早いし(笑)。
それで3巻くらいで終わったの。


●『ストレイン』に関しては?

【編集メモ】

*『ストレイン』1996(H8)年24号〜1998(H10)年16号 ビッグコミックスペリオール 漫画/池上遼一
  兄に裏切られた弟、そして父に命を狙われた娘。東南アジアを舞台に繰り広げられる血族の愛憎劇。


次は、じゃあもう少しエンタテインメントをやろう
ということで、『ストレイン』になって…。

どうしても…キャラクターっていうよりも、
奇をてらいすぎたかなぁ…。
そんなに悪い話じゃなかったと思うんだけどね……。
偏差値が高すぎたね、ストーリー的に。
だからその分、やっぱり下のほう(の読者)を拾えなかった…。

池上先生の中では、描いているうちに、
ラーメン屋とか床屋にあるような漫画を描きたい
っていうのが出てくるわけ。
ずっとそれがあってさ…、俺も反省して、
じゃあとりあえず、『ストレイン』はあるところまでやって終わりにして、
次は、中華そば屋やラーメン屋に
油まみれであるような漫画を描こうよって、
それで『HEAT』が始まったのかな。

●『サンクチュアリ』、『オデッセイ』では史村翔。
 『ストレイン』、『HEAT』では武論尊。
 ペンネームを替えた理由は?

それは池上先生の要望なのよ。
池上先生はなんでそういう要望をするかっていうと、
エンタテインメントに戻してくれってことなわけ。

史村翔ってどうしても…、堅かったり真面目だったり、
ちょっと偏差値高めっていうか…、
作品的にちょっと気取ってるわけよ、言ってしまうと。
そうじゃなくて、池上先生は、
武論尊のアバウトで荒々しさっていうのが欲しいってことで…。
池上先生って、そういう言い方しかしないわけ、やさしいから。
はっきり言わないで、言葉を選んで言ってくるから。
そうすると、それが武論尊でやってってことなのよ。
そうすると、こっちのほうが
そうか、そっちのほうが池上先生は描きたいんだと…。
その武論尊って言うのは、
やっぱりラーメン屋に置いてあるような漫画のストーリー、
エンタテインメントっていうことなんだよね。

それで、だんだん、エンタテインメントのほうに戻って来て、
じゃあもっとわかりやすくやろうよってことになって、
それで新宿を舞台にして『HEAT』になったの。

こっちもプレッシャーあったんだよ。
だってずっと、池上遼一という名作家を独占しているわけだから。

【編集メモ】
 
*『HEAT』1998(H10)年 17号〜連載中 ビッグコミックスペリオール 漫画/池上遼一
  2002年小学館漫画賞受賞作。


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