原先生の読み切りは、現代劇だったの。
だから、思いっきり変えていいかってことになって、
現代劇じゃあ、これ、普通の漫画だからあまり面白くないからって、
それで…、とにかく近未来のものにしようということになって、
そのころ、ちょうど『マッドマックス』って映画があったのかな。
その映像が俺の中に残ってて、
『マッドマックス』の世界にその拳法使いを入れたら、
すごい面白くなるんじゃないかなってのがあったのよ、俺の中でね。

拳法って、力でしょ。
自分の肉体の強さを示すのは文明があっちゃダメだってのが、
まずあったわけ。
いわゆる力と力、肉体と肉体の戦いを出すには、
やっぱり、そういう『マッドマックス』のような近未来の世界か
もしくは原始の世界、どっちかだろう。
原始の世界というのはつまんないでしょ。
そうするとやっぱり近未来か。
これだったら、ひょっとするとっていう感じで、
俺の中でストーリーが出来て…。

それに加えて俺、
『ドーベルマン刑事』が終わってしばらく当たってないときに、
やけくそになってカンボジア行ったんだよ(笑)。
紛争終わったあと、ポル・ポトが逃げたあと…。
ベトナムが入って…カンボジアを制圧して、
ちょっと安定したのよ。
そのときに、アンコールワットに行けるってんでカンボジアに行ったのね。
そのときに見て来たすっごい風景があるのよ。
骸骨がゴロゴロしてて、いわゆる『キリング・フィールド』の世界が
本当にあるわけよ。

(まだ地雷なんかも…)

そう。
だから、おしっこするときにちょっと道路はずれた瞬間に、
ガイドが「NO!」って、
何だよって言ったら…、
地雷!地雷!(苦笑)
そーいうところだったから、その体験も強烈に残っているわけ。
そうすると、俺の見てきたもの、それをやっぱり……、
すごい世界が書けるんじゃないかって…。
それで、1回目の近未来の話が出来たのよ。
そう、それが最初の…。

もちろん、向こうのオファーがあって、やれるかどうか来て、
で、俺がやれる、やりますって言って、
いい舞台ができた。
ま、その段階だよね、その段階でもうすでに、
この話はだいたいうまく行くなって感じはあったけどね。

【編集メモ】

*『マッドドッグ』1983(S53)年 週刊少年ジャンプ 22号〜31号 漫画/鷹沢圭
*『マッドマックス』1979(S54)年 アメリカ
  主演のメル・ギブソンの出世作となった近未来バイオレンス・カーアクション。
*『キリング・フィールド』1984(S59)年 アメリカ
  内乱のカンボジアで出会ったアメリカ人ジャーナリストと現地人ガイドの友情描いた傑作。


●その他に『北斗の拳』に影響を与えた映画、小説などは?

やっぱり『マッドマックス』のその世界と、
カンボジアで見て来たその本当の…、『キリング・フィールド』。
『マッドマックス』は作られた世界でしょ。
でも、現実に『マッドマックス』みたいな世界が
カンボジアにあったってことなわけ。
だから、これはすごいリアリズムで書けるなってのがあるさ。

当時のカンボジアは、60歳以上の男と18歳以下の男しかいないんだよ。
中間が全部粛正されていないんだ。
その間はどうしたって言ったら、全部殺されたって言うわけ。
そう言ったガイド…、
向こうの政府の、暫定政府の人間なんだけど、
俺たちをガイドしてたの、まだ、20、21なんだよ。
うまく生き残った子なんだよね。
その子達の年代がもうその政府の中で、
いろいろな働きをしているって年代だから…。
そりゃあもう、うそーって感じだよ。

だから、あれがなかったら…、
『マッドマックス』の風景だけだったら、
う…ん、作り物になってたかもしれないね。
だから現実問題として、カンボジア見たってところで、
作り物プラスアルファ何かがあったかもしれないね、
ストーリーの中でね。


●カンボジアへは取材ですか?

えーとね、西側にね、初めて開放して、
アンコールワットに入れますってツアーがあったの。
でもそれは、観光ツアーって形だと行けないんで、
政府の使節団…、親善使節団みたいな形で行くの。
だからツアー料金プラスいくらか出して…。
カラーコピー機かな…、そういうのがないのよ。
コピー機とかそういう物が全部ないから、
そういう物をプレゼントっていうか、持って行くって感じの…。

だいたい、雑誌社の連中とか、秘境マニアみたいな連中。
もう世界の危ない所行き尽くして
行くところがないっていうような連中、
金持ちの歯医者とかね。
それとあとは同じ時期にヨーロッパから来た
カメラマンのクルーとか、BBCのクルーとか、
そういうのが一緒に行動してたけど…。

だからそれはね、すごい経験だったよ。
アンコールワットに行くには…、
アンコールワットの先には、
まだポル・ポトのゲリラがいっぱいいるわけだよ。
そうするとアンコールワット着いたときに、
俺たちのガードしてくれる兵隊がいるわけだけど、
その中に12、13歳の少年がいるんだよ、一人。
彼のお父さん、お母さん、殺されたって。
で、機関銃持ってんだよ。
本物かって言った瞬間に、いきなり空に機関銃、ダダダって(苦笑)。
いい、いい、もういい!って。

そういうものを見てないとわかんないでしょ。
写真見ただけでは…。
実際にそういう子が居て、
実際に機関銃持っていて、兵隊でいてって…。
それはね、いい経験だったよな。

(自分の経験を作品に活かしてますよね)

いつの間にかね。
そういうのって、狙ってやったわけじゃないんだけど、
帰って来たときに、あぁ、あれを見て来たってのがあるから、
最終的にそのあとの『サンクチュアリ』なんかも
きれいにはまってたでしょ。


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