●それが今の仕事に対するモチベーション?


そう、なんかがないと流しちゃうでしょ。
もうある程度名前があって、仕事があって、
これ書いてたら仕事くるなと思ったらやっちゃうんだけど、
そのやっちゃったあとの反動? 
あいつもう終わった、いらないやって言われるのが一番怖いから。
そうすると、俺はまだ書けますよ、書けますよっていうのを
アピールしてないと、なんか不安でしょうがない。
それは貧乏症だよね。

ほんとに裕福な家庭に生まれていたら自衛隊に入っていないし、
本宮と知り合っていないし、漫画絶対書いてないからな。たぶん。
違う作家っていっぱいいるじゃないか。
でも、俺は漫画をなめられないんだよな。
しっぺがえしきたら終わるぞっていうのがあるから、どうしても。

だから、人に嫌われたらいかんっちゅーのももちろんあるわけだよ。
人に嫌われたら、孤立したらだめ。
人から捨てられる、疎外される、そのことに対する恐れ?
それはもうほんとに早いころから、
もう小学校の低学年からしみついているわけでしょ。
ましてや、俺、おやじいないだろ。小学校6年で死んじゃったから。
そうなると、百姓がやだったのもあるけど、たとえば高校出て大学出て、
片親の場合、当時はすでに就職の段階でハンディキャップだったの。
たとえば銀行系とかしっかりしたところは片親だめだったわけ。
家がしっかりしてないってことで。
そういうのもあって、そうすると、いろんなハンデあるから、
そういう意味じゃあ、とにかく自分で生きるしかないよな。

すでに、そのころから人生ってのはきついものだってわかってるわけだからさ。
だから、とりあえず強い者の前には腰振ってしっぽ振って、
ちんしなきゃいけないっていう、すりこみが入っちゃってるよ。

今の子たちは簡単に食べていけるってのがあって、
そういうのはプータローっていって、
職を持たなくてもいいから、俺は実はうらやましいよね。
責任とらないっていうか、自分だけ食べていければそれでいいじゃんって。
俺たちのころはそれでプータローになったら、業種がないからな。
考えられる仕事っていうのは丁稚奉公行って、
料理人になるか、散髪屋になるか。
手に職得るかだな。
俺の場合、そっちにコネがなくて、自衛隊あるじゃないって、
自衛隊にコネがあったから入っただけで、
俺の親戚かなんかが東京でレストランかなんかやってて、
見習いのシェフがいるっていったら、俺はそっちに行っただろうし。
俺、多分料理人になってても、けっこういい料理人になったろうって自負はあるもんあなあ。


●決局、キーワードは貧乏ですね

貧乏ってね、うまく回るとすごくいいんだよね。
モチベーションとか負けたくないとかって、コンプレックスでしょ。
そのコンプレックスの中からいいほうに回転すると、上がってくんだけど、
へたに負に入ると、もうすねちゃうわけでしょ。
たまたま俺の中ではそれがいいほうに…、
それはどっかでさ、俺は頭いいと思ってるわけだよ、どっかで。
ここ(頭)で負けないぞって、どっかひとつ強いとこがあるわけ。
そーいうところがあると、どっかでコンプレックスがいいほうに行くわけ。
それがだめで、なんにも俺ってすぐれてるとこがないやってことなら
へこむんだろうけど、
どっかで、俺自分自身の頭けっこうやれるかもしれないって思ってたからな。
そこがないときついだろうな。

人間が上がって行くのは、劣等感か優越感。
どっちかを持っているやつが上がって行くのよ。
中途半端が一番あかんね、多分。
優越感持ってる連中は絶対負けないと思ってるわけだから、
負けたくないし負けるわけないと思ってるから行くじゃないか。
劣等感持ってる連中はこの野郎食ったるぞって行くわけだろ。
どうせ失う物はないしって。どうでもいいやってのはだめだ。

人間的には優越感持ったやつは嫌いだけど。(笑)


[参考文献]

*『なんでもプレイ百科(11)なつ漫グラフィティー』双葉社
*『昭和マンガのヒーローたち』 河合隼雄+作田啓一+多田道太郎+津金沢聡広+鶴見俊輔 講談社



※本文中( )内の表記、および[編集メモ]漫画街。氏名敬称略。
記録に誤りや漏れなどありましたら、ご指摘ください。


(第1回 終)


★第2回は『自衛隊時代』のお話です。 → 第2回へ


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