【質問と解答】

Q:現在デビューして3年目の漫画家です。今悩んでいることは、技術的なことではなく、気持ちのことです。現在月刊誌で連載を持たせて頂いているのですが、自分よりあとからデビューした方たちの連載が続々と始まり、とても焦りを感じています。始まった連載作家さんは皆感性が若く、読者を引きつける漫画で、編集部も自分よりプッシュしていることがとてもわかります。(雑誌を見て)漫画家を続ける以上、こういう焦りと付き合っていくのは当たり前のことで、いちいち気にしてはいけないと頭ではわかっているのですが、最近「もう自分の漫画はこの人たちには追いつかない、もうだめなんだ」とあきらめの気持ちが強くなってきてしまいました。デビューしたての読み切りを描いていた頃は、どんなにアンケートの結果が悪くても絵が下手でも、「自分には絶対人気作家になれる」と信じて頑張れたのに、今では頑張ろう! と思う気力さえなくなってきてしまいました。そして、「なんでこんなに絵も話も下手で連載できているのか」と思ってしまい、周りや担当さん、アシスタントさんにもそう思われているんじゃないかと、どんどんネガティブな方に考えてしまいます。とにかくデビューしたての自信にあふれていた頃とは真逆の気持ちが、もう何か月も続いています。こんなに立ち直れないのは初めてです。だったらもう漫画家を辞めてしまえば済むこととも思うのですが、漫画で仕事をしていきたいという気持ちも捨てきれません。こんな気持ちになってしまったとき、どうやってもう一度自分を奮い立たせればいいのでしょうか?




A:後進に追いつかれ追い越されるという不安と恐怖は、漫画家に限らずどの世界においても誰もが多かれ少なかれ持っているものです。あの「マンガの神様」と言われた手塚治虫先生でさえ、次々と出てくる若手漫画家達の才能に怯え嫉妬したと聞きます。たとえ単行本を何十万部売っている人気作家だろうと、若い感性に負けているんじゃないか、自分の才能はもう枯渇しつつあるんじゃないか、今の連載が終わればどこからも声がかからなくなるんじゃないかという不安は決して拭い去ることができないのです。自分の才能に絶対の自信を持ち、不安や嫉妬と無縁の人間などごく少数でしょう。皆、何らかの形でその不安と折り合いをつけているのです。あなたの場合、生真面目すぎてその折り合いのつけ方が下手なのでしょうね。目を背けて遊び等に逃げても不安を忘れるのはその場限りで、後からもっと焦燥感が訪れるものです。一番楽な道はあなたが書いているように漫画家をやめて他の漫画家との競争の場から逃れることです。趣味で漫画を描いて同人活動をするのであれば、比較はされても商業の場での競争よりは気が楽です。しかし、プロとして漫画を描き続けたい、漫画家であり続けたいと願うのであれば、あえて困難な道を選んでください。
 ひとつは他者と比べられることのない「オンリーワン」を目指すことです。○○を描かせるなら△△先生、○○の題材なら△△先生というような一芸や知識を極めることです。そのためには、趣味なりフェチなり自分自身のこだわりを自覚する必要があります。その上で、そのこだわりを伸ばすべく努力してください。元々自分の趣味やフェチですから、それを極めるための努力はさほど苦にならないはずです。ですが、漫画以外の趣味がない、フェチと言えるものも持ってないという方もいるでしょう。そういう方はもうひとつの道を選んでください。それはズバリ不安を感じる隙や暇を作らないことです。置いていかれるという不安や他者への嫉妬からくる焦燥感は、つまり自分の無力感です。そうした自分の力不足な部分を補うべく常に前だけを見て前進し続ければ、不安を感じる暇もなくなります。目の前の連載作品に最善を尽くすのはもちろんですが、その合間に時間はいくらでも見つけられるはずです。今、あなたが不安に悶々ともだえている時間がそうです。その時間を次の企画作成、そのための取材、文献の読み込み、技術向上のための練習に費やせば、あなたはまだまだ成長できるはずです。後発の新人作家の作品に感性の若さを感じると言いますが、あなたもデビュー3年目でしょう? 実のところ、そんなに差はないはずです。感性と呼ばれるものは大抵、知識や経験の集積を元にした行動や表現の応用です。彼らのほうが読者と感性が近いとすれば、それは映画、ドラマ、漫画、小説、ゲーム等々の体験を読者と共有しているからでしょう。それはすなわち「知識」で補えるものであり、感性は「知識」で磨くことができるということでもあるのです。不安に怯えて立ち止まる前に一歩でも先にと進むことが、あなたを漫画家であり続けさせるでしょう。

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