【質問と解答】

Q:1)キスシーンや性表現を描いている作家さんは大抵同じような描き方をしていて、中には本当に似たようなものまでたくさんあります。そういうありふれた絵なら、それを参考にして描いてもトレスにはならないのでしょうか? とくに性表現の資料なんてありませんし、すごく描き方に困っているので。

 2)トレスはどこからどこまでがトレスなのか未だによくわかりません。車とか(例えばBMを少し変えて)を描いている作家さんは車が載っている資料をもちろん見ますよね? でもそれを見て描いたら勿論トレスになりますし、少し変えて描いてもだめなんですよね? じゃあ車を描いてる作家さんは想像だけで描いているのですか?

A:1)ありふれた絵を参考にしてもありふれたシーンにしかなりません。クライマックスでも見せ場でもなく、単なる客観的なエピソードのシーンとして描くのでしたら、それでもかまいません(あくまで参考にするのであって、トレースはダメですよ)。しかし、主人公やヒロインのキスシーンは大抵の作品において、クライマックスだったり見せ場であったりします。ちゃんとしたプロの作家であれば、そのシーンは構図や表情を工夫し、力を入れて描いているはずです。それがありふれたシーンにしか見えないようでは漫画家を目指すものとして鑑賞力不足と言わざるを得ません。トレースは論外ですが、参考にするにしても自分なりの工夫を加味して、自分だけのクライマックスを演出しましょう。
 性描写(Hシーン)については資料はたくさんありますが、18歳未満だと手に入れるのは確かに難しいですね。あなたが、18歳未満だとすると、Hシーンを無理に描こうとしなくてもいいのではないでしょうか。仮にストーリー上、必要だとしても、間接的な表現で十分ですし、詳細に描きすぎると雑誌掲載不能になってしまいますよ。

 2)漫画におけるトレースとは、オリジナルの上に紙を載せて上からなぞって写し取る行為です。横に並べてオリジナルを見て描くのは「模写」です。トレースとの違いは、描き写す際に描き手の癖や創意が加味されると見られるからです。ただ、模写とトレースについては、模写もトレースと同じだという論もあり、法律上の問題となると判断しがたいケースも多々出てくると思います。ですから、基本的な考え方として、著作物のトレースはすべてダメで、模写は大抵はOKだが著作物の内容によりケースバイケースで判断されるものだと思ってください。ところで、対象が「著作物」であるかどうかは、そこに「創作性」「オリジナリティ」があるかどうかに判断のポイントがあります。つまり、それがその人しか撮れない写真か、誰でも撮れるような写真なのか、です。車の写真の場合だと、前者はレース中の迫力のある写真とか、構図やライティングなど芸術性の高い写真とか、撮影に高度な技術や取材力が要求されるものを指します。後者は、駐車中の車を撮影すれば誰でも同じように撮れるような写真であり、トレースしても問題ない……というか著作権の主張のしようがないわけです。
 とは言っても、車漫画を描いている作家さんは資料本やカタログの写真だけで描いているわけではありません。実際に自分で撮ってきた膨大な写真資料をもとに描いています。そうして、車を描き慣れてくれば、なかなか撮れないような車種の車でもその応用で、カタログがあればいろんな角度で描けるようになります。車をアシスタントに任せず、ダイナミックなレースシーンを描く漫画家さんはこのタイプですね。また、様々な角度から描くために、プラモデルやミニカーを用意する方もいますし、あらかじめ3Dのデータを作っておく方もいます。


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