【質問と解答】

Q:ストーリーについて質問があります。以前、初めて漫画を投稿した時,「ストーリーがあらすじだけになっている」「エピソードが不足している」という批評を頂いたことがあります。また、ほかの投稿者の作品の批評ですが、「ストーリーがない」という気になる記述がありました。ストーリーがなかったり、あらすじだけになったりする原因がよくわかりません。ちゃんとしたストーリーを作るには何を改善していけばよいか教えて下さい。

A:「ストーリーがない」というのと「ストーリーがあらすじだけになっている」というのはまったく別のものです。
 「ストーリーがない」と評された作品がどのようなものかわかりませんが、想像はできます。投稿作で、そういう作品はいくつも見てきました。たとえば、雰囲気だけを絵にしたような作品。たとえば、キャラクターの感情をまったく描いておらず、展開や結末になんの感慨もわかない作品。たとえば、長編を途中で投げ出したかのような、オチのない1エピソードのみの作品。まだまだ、いろんなケースがあるのですが、共通して言えるのは、どれも「つかみ」がなく、「ヤマ」がなく、「オチ」がなく、当然ドラマがないことです。「誰が、どうして、こうなった」、あるいは「何が、どうして、こうなった」という、主体(主人公など)におけるある物事の始まり・過程・結果の出来事を時系列順に並べたものがストーリーです。そして、個々の出来事に因果関係を加えて、読者を意識しつつ再構成したものをプロットと言います。「ストーリーがない」と評される作品は、実はこのプロットがないのです。主人公が不明瞭、個々の出来事や現象の因果関係が不明瞭、結末が不明瞭…。要するに読み手に自分が描きたいことをわかってもらおうという配慮と努力が足りてないということです。

 さて、「ストーリーがあらすじだけになっている」作品ですが、ここで言う「あらすじ」は「プロット」と言い換えてもいいでしょう。前述の「ストーリーがない」作品とは異なり、読み手に対して作者が何を伝えようとしているのかはわかるわけです。出来事も最低限の流れは追えるだけのものがちゃんと入っているのでしょう。しかし、読者は話の筋立てだけで面白さを感じるわけではありません。それならば、あらすじを読めば事足ります。人が漫画を読んだり小説を読んだりするのは、作中人物と同じように喜び、悩み、悲しみ、怒るなど、虚構のキャラクターのドラマを追体験することを楽しむためです。ですから、作中人物に共感できればできるほど、作品世界にのめり込むことができ、ストーリーの展開に興奮し、読む楽しみも大きくなります。そのキャラクターへの共感の手段として、エピソードが必要となるのです。読者にはキャラクターの情報がありませんから、キャラクターの感情や行動に影響を及ぼす要素を出来事(エピソード)の形で読者に追体験してもらい、キャラクターの感情や行動を理解してもらわなければなりません。そして、それを重ねることによって、読者のキャラクターへの共感度は高まっていきます。そして、クライマックスまでに共感度を高めることができればできるほど、大きな興奮や感動を生むのです。たとえば、ラブストーリーを描くとします。ヒロインの魅力は優しい女の子だというところなのだと設定したとき、その「優しい」という情報を言葉だけで説明してはだめです。主人公が鼻血を出した時、他の友達はからかって笑うばかりなのに、彼女だけがおろしたてのワンピースが汚れるのも構わず手当てしてくれたとか、具体的に主人公の心を動かすエピソードがあれば、彼女を好きになる主人公の感情に説得力が備わります。そして、そのシーンの彼女を魅力的に描ければ描けるほどその説得力は増し、主人公への共感度も高まります。別の例をあげましょう。母親を殺された主人公の復讐ストーリーを描くとします。ここで、母親を殺されたのだから憎くて当たり前だと考えてはだめです。母親の生前の姿を描いて、彼女を失った主人公の無念さを読者に追体験してもらいましょう。いつもほほえんでいる理想を絵に描いたような母親像ではなく、たとえば普段は飲んだくれのダメ母なのが、幼い主人公の誕生日前に禁酒してお金を貯めてプレゼントを買ってくれたとか、生活感のあるエピソードのほうが死んだ母親に親しみが持てて、主人公の喪失感への共感を得られます。このように、ストーリーの流れを作りだす、キャラクターの折々の重要な感情や行動原理を見せるためのエピソード作りを創作の課題とするとよいでしょう。


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