【質問と解答】

Q:漫画のストーリーってある程度描き尽くされている部分ってあると思 います。ゆえに、投稿作品でも展開がありきたりという所が短所と 評価される事も否めませんが、漫画の王道とは展開が分かっていても面 白いことにあると思います。多くの漫画家志望者はその辺に面白さを求 めて情熱をそそいで描き続けるのですが、編集者って既視感がどうたらこうたらですね。

A:ストーリー創りの要諦は「読者の予想を裏切り、期待に応える」ことにあると言われます。漫画の王道的な展開というものは、大多数の読者が「気持ちがいい」と感じる展開であり、すなわち読者の期待に応える展開であるということです。「期待を裏切る」展開は、多くの場合、読者の予想を裏切る(意表をつく)ことのみを考えすぎて、奇をてらいすぎたり考えすぎたりして読者が不快と感じる展開を選択してしまった結果です。ベテランの漫画家でも陥りやすい陥穽でもあります。中には作品メッセージを効果的に伝えるために、あえて「期待を裏切る」展開をとる場合もありますが、やや特殊なケースですので、新人時代は「読者の期待に応える」ストーリー創りを第一に考えましょう。

 さて、王道的展開というものは、先人が見いだしてくれた「読者の期待に応える」展開の指標ですが、ただそれをなぞるだけでは、面白い作品にはなりえません。どんなに気持ちのいい展開でも、なんの引っかかりもなく次々と先が読めてしまえば、スリルや興奮はありませんし、キャラクターへの感情移入の度合いも低くなってしまいます。漫画の中のキャラクターと喜怒哀楽を共にすることによって、読者は展開にハラハラドキドキし、面白いと感じるのです。そこで必要になってくるのが「読者の予想を裏切る」ことです。読者は「期待に応える」展開を望みながら作品を読んでいますが、ストーリーの途中経過の中で「ひょっとしたら期待どおりにならないんじゃないか」という不安を抱かせると、自分の期待どおりの展開や結末に至ったときに満足度が高まります。この「読者の予想を裏切る」ために、プロはエピソードを考え抜き、演出に趣向を凝らせます。手あかの付いたエピソードでは読者にあっさり先が読まれてしまいますし、工夫のない演出では展開を見透かされてしまいます。編集者が既視感を云々するのはそういうことなのです。決して 王道的展開を否定しているわけではありません。読者の期待に応えたときの効果を高めるために、どのようなエピソードを選択し、どのように演出して、物語の過程において読者の予想を裏切っていくか──、それがストーリー創作における作家のオリジナリティを形作っていくものなのです。


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