【質問と解答】

Q:エピソードがとてつもなく不足している、と前回投稿した作品に対し編集部の方が仰ってくださったのですが、具体的にエピソードとは 少女漫画で言うと印象的な2人のやりとりで、想いが深まったり…というようなものだと思うのですが、どうやってエピソードを作品 に取り込んでいけばいいんでしょうか。エピソードとはどのようなものなのか、はっきりと分からないので教えていただければ幸いです。

A:辞書によるとエピソードとは「本筋と直接的には関係なく物語中にはさみ込まれるまとまりのある小話。挿話。」(『大辞林』)とありますが、一般に漫画や小説、映画などではもっと広義に、1本の長い話を構成する短い話というくらいのニュアンスで使われます。TVドラマやシリーズ物の大作映画などでは、1話まるごと、1本まるごとを指してエピソードと言うこともあります。漫画の読み切り作品だと、全体のストーリーを構成する各シーンの話がエピソードということになりま す。

 さて、ここでは同じクラスのおとなしい少女と不良っぽい少年の恋愛とい うステレオタイプの漫画を例にしてエピソード作りの過程を追っていきましょう。少女が少年のことが気になるきっかけとして、少年が雨の中で捨て猫を拾うシーンをヒロインが目撃するというベタなシチュエーションを考えてみます。ありきたりのエピソードですから、ただ捨てられている猫を拾うだけでは、読者の心に何も残りません。読者自身 の心が動きませんから、その行為にヒロインの心を動かされるという 「説得力」がないわけです。では、少年が傘を捨てて自分のジャケットを脱いで猫をくるみ込んで抱えるとして みると、少しよくなりました。ここで「ジャケット」という小道具が出てきました。では、このジャケットが少年にとって大事なものであるという情報を入れれば、少年の行為により重みが出てきそうです。というわけで、このエピソードの前に、少年が買ったばかりのジャケットを友人たちに自慢しているのを少女が聞いているというエピソードを配置してみましょう。次に 「猫」に ついて考えてみましょう。誰もがかまいたくなるような愛らしい仔 猫は絵にはなりますが、このシーンは仔猫の可愛さをアピールするシーンではありません。誰もが助けたくなるような仔猫を拾うよりも、手を触れるのを躊躇するような猫を拾うほうがインパクトがあります。そこで、 猫はやせこけてところどころ毛が抜けて目やにがいっぱいで全身泥だらけ、おまけに 足を骨折して血が出ているとしてみます。これなら猫好きの女の子でも手をさしのべるのを躊躇しそうです。そう、ヒロインの少女は大の猫好きにしてみるのはどうでしょうか。冒頭に、登校前に親や近所の人に内緒でなけなしの小遣いをはたいて野良猫たちに餌をやっているエピソードを入れてみます。猫好きを自認する少女が何もできなかった猫にためらいもなく手をさしのべ、大事なジャケットにくるんで保護する少年。少女は躊躇した自分を恥じるとともに、少年に賛嘆と関心を抱くという流れなり、少年に好意を抱くようになるエピソードにかなり説得力がでてきました。シーンの続きとして、少女はクラスメートだという親近感も手伝い、不良っぽくて苦手だという意識も忘れ、思わ ず少年に傘を差し伸べるという展開にしてみましょう。そこでさらに少年をクローズアップために、猫の骨折を手際よく応急手当するシーンを 入れます。すると、少年のプロフィールへと話が持っていけます。家が動物病院で治療の手伝いをしていたとか、実は獣医を目指していると か、ペットショップでバイトしているとかですね。すると、それが次の エピソードを導き出してくれます。また、猫を両手で抱きかかえた少年 に少女が傘を差し掛けながら駅まで送る流れになると、別れ際に手に 持っていた 少年の傘を渡し忘れたとすれば、その傘を返すエピソードへとつなげていけ ます。もちろん、少年が保護した猫こそは、ストーリー展開上、もっとも重要な「小道具」となりえそうです。

 こうしてみるとエピソードには、キャラクターや小道具、舞台(場所や状況)についての情報を提供するための小エピソードと、キャラクターの感情を変化させるための大エピソードに大別され、それぞれが密接に関わり合っていることがわかります。さらに、情報や感情に「説得力」を持たせるというのがエピソードの役割です。ナレーションやモノローグは単なる事柄の伝達にすぎず、読者の心を動かすことはできません。ストーリーの中で大事な情報、ドラマとして重要なキャラの感情の動きは文字ではなく具体的なエピソードを使って読者の心に刻み込まなければなりません。また、今述べたようにエピソードには「具体性」が肝要です。エピソードが具体的でないと、そこに共感は生まれませんし、そうなると先に述べた「説得力」が落ちていきます。そのためには 「小道具」をうまく使ってください。前述のエピソー ドでは「きたない猫」「ジャケット」「傘」といった小道具が使われ、読者のイメージの 具体化を助けるとともに、小道具を仲立ちとしてエピソード間のつなが りをもたせています。

 エピソードを構成する材料にはさまざまな知識・情報が必要です。前述の例でも、野良猫の習性、動物の病気やけがの知識、男の子に人気のファッションと価格などがあります。必要な知識は調べればいいのです が、何が必要かわからなければ調べようがありません。エピソードを発想するための手がかりとなる様々な知識や情報の「かけら」が「ネタ」です。様々なストーリーで効果的なエピソードを創るためには、日頃からためになりそうな知識、おもしろい雑学、楽しい話題、笑える会話など、様々なネタを書き留めておく習慣をつけることが大事です。


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