わたくし、少年漫画誌編集者として8年目。
来る日も来る日も漫画のことを、とにかく漫画のことを考え続けています。
 今回のテーマは“持ち込み”ですね。
「漫画の持ち込みをしたいんだけど、やっぱちょっと行きづれーよな」と思っている方々に、その重い腰を上げるきっかけとなってもらえれば。私の知識と経験を総動員して、ちょっと得体の知れない持ち込みというもの、その実践を考察してみたいと思います。

●原稿持ち込みに必要なもの

 持ち込みに必要なもの。それはひとつだけ。原稿です。
この場合の原稿とは、下書きやネーム段階のものではなくて完成原稿のこと。
持ち込みで私たちが見せて欲しいのは、あなたのすべて。ペンやトーン、仕上げも含めて、たとえ上手ではなくとも、あなたの現状をさらけ出して欲しいのです。
 ペンが上手くなければ上手くなれるような、トーンが使いこなせていなければトーンマスターとなれるようなアドバイスをこちらも考えます。原稿を完成させてみたものの満足できなかったところを、あなたが私たちにぶつけてくれてもいいのですよ。
 そのためにも、持ち込みには完成原稿とやる気を持っておいでください。

●持ち込み先の選び方

 最近、新人の漫画家さんにこんな相談を受けました。
「僕の彼女が同じく漫画家を目指しているのですが、今ふたつの出版社の間で迷っています。一社は非常に好意的でアドバイスも丁寧、良いところと悪いところをきちんと指摘してくれます。もう一社は“賞を取るためだけに送ってきたような漫画はいりません”と、けんもほろろに突き返されました。
 彼女は、突き返された出版社の雑誌が大好きで、本当はそこでがんばっていければと考えているようです。彼女はこのように対応の違う出版社の、どちらを選べばいいのでしょう」
 賞を取るためだけに送ってきたような漫画はいらないというのは意味が良くわかりませんが、とりあえずこの質問には即答。
「好意的で丁寧にアドバイスをくれる出版社(雑誌)を選びなさい」

 持ち込み先の決定は、頭を悩ます問題ですね。
あなたが大好きな、愛読する雑誌を選べばいいのだ! と言いたいところですが、実はそう簡単なことでもありません。
 まずは自分のために一番いい場所、という視点を持ちましょう。
その雑誌が自分に何をしてくれるか、自分と真剣に付き合ってくれる気があるのか。漫画家を目指すあなたたちにとって、これは一生を左右する大問題。それを計るためにふたつ以上の雑誌に持ち込んだっていいと思いますよ。
 もちろん、まずは好きな雑誌、そこでがんばってみたい雑誌をピックアップしましょう。
 その上での取捨選択は必要なのです。

●持ち込みの一般的な流れ

○まずは電話!
 持ち込みのはじめの一歩は、編集部への電話です。
もちろん緊張はあるでしょうが、大丈夫。電話に出る編集者も同じ人間。常識的な礼義を携えて、気軽に電話してください。

 この電話で聞かれることは、氏名、年齢、連絡先などの簡単なこと。もちろん対面の日時も決まります。
 ここでふたつ以上の雑誌に電話してみるのもアリです。
同じ作品で大丈夫。日時をずらして持ち込みを決めて、雑誌、編集者との相性を計りましょう。その上で一番反応が良く、アドバイスなどもいいと思えた雑誌と付き合っていけばいいのです。
 ここで大事なのは、ふたマタ以上は初回の一度だけにすること!
二度目の打ち合わせからは、ひとつの雑誌で全力を注いでがんばってください。

○そして編集部へ!
 いよいよ編集者と一対一での対面です。
ここでは基本的には編集者主導で話が進んでいくので、あなたに必要なのは上手くその流れに乗ること。聞かれたことには正直に答え、質問があれば素直に聞く。特別なことはまったく必要ありません。自分を大きく見せようとか、相手に好印象を持ってもらうために、ちょっとだけウソついちゃえってのはナシで。
 原稿を描く過程で疑問や謎があればメモしておいて、この場でぶつけるというのもいいかもしれませんね。
 話の流れによって、次回の打ち合わせ日時が決まるか、また電話してくださいとなるか別れますが、そこにたいした意味はないです。大事なのはこの対面でお互いに何を話せたかということ。
 上でも述べたように、この対面の印象で、自分が当面の舞台とする雑誌をひとつに決めましょうね。

●プロの原稿を見せてもらえ!

 もしかしたら持ち込みを受けた編集者の方から見せてくれることがあるかもしれませんが、これはぜひお願いして見せてもらいましょう。
 プロの原稿というのは、正直言ってスゴイです。
わたしもはじめて見たときには、これは本当にペンで描かれたものなのですか? と思いました。あなたがこれから原稿を作っていくうえで、百の言葉よりためになります。その原稿は、あなたにとってのエベレスト。どんなに高く見えていようと、それを攻略するルート、テクニックや機材はあるのです。
 プロの原稿に、とにかく衝撃を受けてください。

●新人賞などへの投稿と持ち込みの違い

 新人賞と持ち込みの違いはただひとつ。漫画の現場と生の付き合いができる、ということです。
 いままで一人で続けてきた漫画という孤独な作業に、仲間が生まれます。まずは持ち込みを受けた編集者。あなたの担当です。そしてあなたが持ち込んだ編集部は、四六時中漫画のためだけに動いている天国のような場所。

 新人賞への投稿でも担当が付くことはありますが、それには一定以上の自力が必要です。少なくとも一次選考に通過したもの。その中でも特に目に付いたもの、こいつはけっこうやるなと思わせたものが担当を捕まえるのです。
 それに比べて持ち込みは、持ち込んだその日にもれなく担当者が付いてくる。これは相当お得な特典でしょ?
 編集部には、あなたの未来の担当が、腕を鳴らして待ってますよ。

●編集者はこんな持ち込みさんを求めている

 わたしたち編集者は、もちろんいつでも天才を待っています。正直に言うと、そうなんです。
 でも、天才は万人に一人だから天才。そんな出会いは期待していません。
今現在活躍している漫画家さんのすべてが天才かというと、決してそんなことはないと思うのですよ。
 漫画家さんに必要なのは10%の才能と90%の情熱です。
持ち込みをするために作品をひとつ完成させたあなたに、何がしかの才能は絶対にあります。自分ではわからないかもしれないその才能を見つけるのは編集者の仕事。才能を信じて努力する情熱が、まんが道に一番必要なものなのです。
 情熱とは、努力するための強力なバッテリー。
つきなみですが、わたしたちは情熱あふれる持ち込みさんを待っています!

【少年誌編集者T】


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