●神崎進吾の名探偵紹介!●

 『アンナ』本編も、いよいよ第4話。ストーリーの軽快さを出すべく、今回は25ページで頑張ってみましたが、いかがでしたでしょうか ? が 、その分、説明不足な点が散見されるようなので、この場で補足したいと思います。先ずは、今回ご登場願った名探偵殿を紹介させて頂きます。

【思考機械(The Thinking Machine)】
 上記の名称は、もちろんアダ名。本名は、オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン。哲学博士(PH.D.)、法学博士(LL.D.)、医学博士(M.D.)など多数の肩書きを持ち、名前と併せるとアルファベットのほとんどの文字を使ってしまうという、アメリカ出身の大学教授。痛ましいくらい小柄な、子供のようにほっそりした男。麦わらに似た黄色っぽい頭髪が広く高い額の上に覆い被さっていて、その下に小さくて皺だらけの顔がある。世俗を避けた学究徒らしい蒼白い顔で、なにか微小の物体を見極める時のように、狭めた瞼の隙間から、針のように鋭い視線を走らせている。チェスの全米選手権保持者に手ほどきを受けただけで世界選手権保持者を負かし、《思考機械》の異名を取る。傲岸不遜に見えるが実は暖かい心の持ち主で、自ら危険に身をさらしたり、友人を救出するために飛び回ったりもする。

◎作者はジャック・フットレル。ジョージア州で生まれ、新聞記者や劇場の支配人などを務めた後、ボストンに引っ越して〈ボストン・アメリカン〉紙の編集スタッフの一員になり『思考機械』を誕生させた。同紙は彼の作品の多くの発表の舞台にもなった (ちなみにボストンのジャーナリスト出身の推理作家に、名探偵チャーリー・チャンの生みの親 E・D・ビガーズがいる)。1895年に L・メイ・ピールと結婚。そして1912年4月に、あの悲劇的な〈タイタニック〉号の遭難事故にぶつかる。彼は妻を救命艇に押しやり、自分自身は船にとどまって海底に没した。この時、彼は『思考機械』の新作数編を持っていたらしい。そんな彼が遺した『思考機械』の物語は 、現在 、創元推理文庫から出ている『 思考機械の事件簿1』(訳・宇野利泰)〜『思考機械の事件簿3』(訳・吉田利子)で 、ほとんど読むことが出来ます。今回の『 アンナ 』は、そのうちの『 3』に収録されている「緑の目の怪物」という短編から想を得ました。現代風にアレンジしたつもりですが、百年近く前に書かれた原作と読み比べて見るのも一興かと思います。

◎慣例通り、漫画の説明を。セリフの中で皆さんが一番引っ掛かっているのではないかと思われるのが、名探偵バージョンのアンナが文明に対し「誕生石の知識はキミからもらった」と言うセリフの意味ではないでしょうか。一話目の時に名探偵ジュパンが最初はフランス語を喋っていますが、その内、アンナの知識などを瞬時に読み取って日本語で話すようになります。要は、これと同じ現象なんですが、少し違う意味が含まれています。実は『思考機械』が活躍していた時代には、現在のような誕生石が明確にリスト・アップされていなかったのです。現在のような形になったのは 、たかだか40年ほど前のことで 、初めアメリカで提案されたものが、すぐさま各国に広まり、その国々の独特の好みを多少交えながら定着していったと思われます。だから、新しく得た知識の入手先を公明正大にするのが『思考機械』らしいなと思い、こういうスタイルで使わせて頂きました。この他に気になる点などありましたら、遠慮なくメール等をお寄せ下さい。よろしくお願い致します。

                        神崎進吾/漫画街